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  1. 小野坂貴之
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エッセイ

筆を選ぶ。

自分で言うのもなんだが、私は字を綺麗に書くことができる。 幼き頃から書道教室へ通わせてもらい、誰に見られても読みやすい字を手に入れた。これは両親に感謝するもののひとつである。 私の通っていた書道教室では段位七段が最も高く、私が到達したのは六段だった。その当時は「まあまあいけてるんじゃないか」と思っていたのだが、学生時代のバイト先の「まるで印鑑のふちを思わせる鬼の丸文字」を誇った店長が、「俺、十四段 […]

言葉にならない。

たまに、ふと気づくとしゃべりながら家事をしている。それはもう随分長く分かっていた。 随時確認の意味合いもあるので、長くそのままにしていたのだ。 ところが今日、はたと気づく。 「これはこうしとったらええかいの」「あれせないかん」「これをあれしてこうしとったらええんちゃうんか」 主語も述語も名詞も動詞ですらも、その全てが「これ」と「あれ」で構成されていたのだ。 いかん。これはもう堕落である。「あれ」と […]

悲しかった話。

平日の何回か、私はオフィスへ弁当を持っていく。前日の夕飯のオカズを翌日のランチのために少し分けて残し、夕飯終わりに弁当箱に詰め、冷蔵庫に入れておく。炊飯器に残る、少し多めに炊かれた白飯は、近いうちの晩御飯用にタッパーケースへ詰め、こちらは冷凍庫へと保管するのだ。 たしか、先週のことである。 朝にオフィスへと出かける直前、冷蔵庫から弁当箱を取り出し、別に用意した野菜サラダと一緒に黒布のランチケースへ […]