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  1. 小野坂貴之

叶わぬ夢、叶えた現実

ずいぶん昔、「一重切れ長、髪は『さふぁーっ』とした直毛で、銀縁の眼鏡が似合い薄い顔立ち。細身で足が長く、強い風が吹いたらあっと倒れそうな、病弱そうな色白の人」に憧れた。(『さふぁーっ』はさらさらと風になびく髪を表現。学生時代、私の周囲でみんな言っていた)

というか、なりたかった。

なぜなら当時の私、まぁ今もそうだが、「ガンガン二重、髪は伸ばすと枝毛が刺さる剛毛で言うこと聞かず、強風なぞにはビクともしない下半身がっしりのザ・農耕民族体型で、たまに『東南アジア系?』と問われる色黒」という、まるで真逆だったからだ。おまけに転んで前歯が半分欠けて黒ずむオプション付きである。

憧れに近づくために努力した。

一重切れ長になるため目を細めて歩いた。すると「ガンつけとる」と不良に絡まれた。
髪を伸ばしてパーマをあててみた。すると「モップみたいだ」と笑われた。
せめて足を細くしようと筋トレした。するとさらに成長を遂げた。
一生懸命身体を洗ってみた。でも色黒は色黒のままだった。

うむ。枚挙に暇がない。努力はしたが失敗に終わったのだ。

当時の同級生に、キムタクロン毛に憧れて髪を伸ばすものの、剛毛癖っ毛のおかげで、前から見るとまるで開きすぎた扇のようになり、一時期「ライオン丸」とあだ名されてしまったサガラ君という人がいたのだが、今でも気持ちは痛いほど分かる。

ああ、叶わなかった夢である。

さておき。

実は私の憧れ、「一重切れ長で病弱そうな色白の人」の中で、ひとつだけ叶えてしまっているものがある。残念ながら「病弱」の部分である。

私は、よく風邪をひく。季節の変わり目なんぞほぼ確実だ。最近は警戒を怠らず、出かけるときは常時マスクをしている。

だが私は今週、月曜日と火曜日の二日間、仕事を休んだ。三十九度もの熱を出し、ぶっ倒れていたのだ。時節柄「インフルエンザでは?」と気になり、寝床を這い出して病院で検査を受けるも結果は陰性。

ホッとして帰宅するものの「インフルちゃうのに高熱やなんて繊細か、繊細か!色黒おっさん、四十路になって繊細かアホ!」と高熱に浮かされて一人高笑いしつつ、ふと前述の憧れを思い出し「そういえば病弱だけ叶えとるんかいの?」とやるせない思いに駆られて再び寝床に倒れ込んでしまった。

繊細な四十路おっさんなんて、今となってはちとキモいだけなので、忘れないように心に刻むため、以上ここに記しておこうと思う。

(転んで欠けて黒ずんだ前歯は、交通事故を経てほぼタダで美しい差し歯へと生まれ変わるのだが、それはまた別のお話)