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  1. 小野坂貴之

粘り合うアナタと私、いつのまに。

夕方帰宅すると、玄関の扉の前に生協からの荷物が三箱も積まれてある。「こんなに注文したっけか?」と思いつつ、中へ入れる。箱をあけて中身を取り出して冷蔵庫に入れる。お、納豆があるではないか。そうだ、今日はこの納豆を晩御飯にしよう。

冷蔵庫の中の残り物をチンして、納豆と共に食卓へ。納豆の封をあけ、固さのややある粘りになるくらいを目処に、箸先で感じながらかき混ぜる。ほんのりカツオのきいたおつゆを少し垂らして、一気に頬張る。ああうまし。気づいたら食事終わりまでに、三つもいただいてしまっているではないか。おおお。

実は、二十八を迎えるまで納豆がこの世で一番嫌いな食べ物だった。

幼い頃、香川に生まれた私の家の食卓へ、納豆があがった記憶がない。そう、全く馴染みのない食べ物だったのだ。「うどんだー、なんだーかんだー」を食しながら、ある日突然、私は納豆に出会う。確か、小学校にあがった頃だったように思う。

ある土曜、小学校が終わって一つ下の弟と外で遊んでいると、当時住んでいた社宅のベランダから、我らを呼ぶオカンの声が聞こえる。「昼ごはんやけん、はよ帰ってきまい!」

遅れてしばかれぬよう、弟と二人、そそくさと家へと走り戻り、食卓へ着く。

と、どうしたことだろう?私たちの前に、どんぶり茶碗にモリモリに盛られた白飯が準備されているではないか。普段は小さなご飯茶碗なのに。いつもより多めの湯気が、奇妙な感じで立ち上っている。

「食べまい」と促され箸を進めると、どんぶりの下から茶色くて粘り気のある強烈な匂いのものが出てくるではないか。「オカン、ご飯腐っとる!」

即座に叫ぶも、オカンから「それは納豆や」と言われる。その、色と匂いで思考停止していると、「隣のミキちゃんも食べるんやから、アンタらも食いまい」とオカンは逃してくれぬ。今考えたら本当によく分からぬ理由だ。

以来、納豆がトラウマになってしまったのだ。どのくらいトラウマかと言うと、その後あの茶色い腐ったものを食べることができたのかどうか真っ白で覚えていないほどである。

とはいえ、二十八を迎えたある日、大げさに言うと私はこの納豆に命を救われ、トラウマを華麗に克服してみせるのだが、それはまた別のお話。

本当は何を書こうかと思っていたかというと、納豆といえども食い過ぎに注意だ。夜半を迎えた今、ちと気持ち悪い。うぷぷ。