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  1. 小野坂貴之

無くて七癖。

仕事を終えた夕方六時過ぎ。いつものように赤坂見附までの一駅分を歩くためにビルの外へ。寒い。ものすごく寒い。ロングコートにマフラーを固く巻いた完全装備ではあるが、こりゃしばれるねぇ。

赤坂見附の駅に着き、ホームへと降りる。大雪当日の混雑までとはいかないが、いつもよりやや並ぶ人が多い。次のにしようかどうかと迷いながら、流れに任せて開いたドアになだれこむ。うむ、満員電車だ。ドア付近の、つり革に届かぬ微妙な場所なので、リュックサックを前に抱えて、立ち位置を整える。

出発してすぐ、私の背後の男女が二人、野太い大声で会話を始める。「あのひと、本当に勘違いしてるのよね」

ちらり振り向いてみると、眉間に皺を寄せた強面のおばはんが、私の背中合わせで密着したおっさんに、「勘違いのあのひと」について激しく同意を求めている。「大音量スピーカーおばはんの方が、何かを勘違いした人生を送っとるんでは」と勝手に独り言ちた矢先、私に事件が起きる。

背中合わせのおっさんのリアクションが半端なく大きいのだ。この満員電車の中、「そうですねぇ」と軽く相槌を打てばよいものを、大きくうなずきながらケツを後ろへ突き出し、私の背後をガンガン攻撃してくるのだ。不意の攻撃に大きくよろけてしまう。

すんでのところで体勢を立て直すも、スピーカーおばはんが「勘違いよ」と話す度、おっさんのリアクション攻撃が私へと繰り出され続ける。「さては、新手の陣地拡大作戦か、このボケ」と思ったものの、どうも素のようである。きっと癖である。周りを見てない傍迷惑な癖である。

無くて七癖、あって四十八癖。

自分では気づかぬ癖をきっと私も持っているのであろうが、こんな傍迷惑な癖ではない、はず。と、信じたい。

お寒い気持ちの満員電車で、そう悲しく考えてしまった。