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  1. 小野坂貴之

ガンジガラメのそのときは。

小野坂貴之です。

本日も稽古を終え、小雨降るなか稽古場から自由が丘駅へと向かう。私の持つ折り畳み傘は、見た目は普通の傘とそう変わらぬ、12本骨の特大サイズである。色はワインレッド。「暴風雨にも負けない!」というフレーズに惹かれて手に入れたものだ。いや、暴風雨だけでなく小雨のこの頃には、背中に背負うリュックサックも守ってくれて大変重宝している一品だ。大きく守ってくれる分、折り畳むのは少し手間と時間がかかるのだが、それはこれの愛嬌というものだろう。

小雨に濡れ、少し湿った折り畳み傘を手に、新宿三丁目で電車を乗り継ぎ、いざ丸ノ内線へ。雨のせいか西へと向かう電車はいつもより混雑している。私の周りをふと見渡すと、綺麗なパンツスーツを身に纏った黒髪のご婦人が、まっすぐに立っていらっしゃる。姿勢の良い方には、目が惹かれる方である。
 
と、したところで電車の扉が開く。多くの乗降が巻き起こる、新宿駅に着いたのだ。後方からの圧に押され、ひとまず一度降りて出口をあける。ところが。
 
先ほどのご婦人が、仁王立ちのまま動かないのである。「アタシゃ絶対に降りたくないの、アタシの横を通ればいいぢゃない」とでもいうように、すくっと立ちふさがったまま動かずふんじばっておるのだ。頑なな、どうでも良さげな思いにガンジガラメな風である。どう考えても、降りた方が事がうまく運ぶだろうに。
 
降りる人並みにがんがんとぶつかりながら耐え忍ぶその姿は先ほどとは打って変わり「とんでもない不美人」へと変貌を遂げていた。
 
その姿をみた教訓、「心がかたくてはやはり美しくみえない」。本日帰途で心に刻んだ思いである。
 
〜SPIRAL MOON 37th 「みごとな女」稽古場日記より抜粋〜