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  1. 小野坂貴之

電話の向こうで聖夜のあいさつ。

まただ。見知らぬ携帯番号から着信。

ここ2ヶ月の間で数回に渡り、知らぬ間に不在着信を残して消えていく。その見知らぬ携帯番号が今、私のデスクで着信している。ああ、気づいてしまった。調べてもこれまで誰だか分からんかったから、見て見ぬ振りしていたのだが、気づいたからには出ねばなるまい。「はい」と名乗らずにとってみる。

「メリークリスマス!」

その言葉がおよそ似つかわしくない五十過ぎおやっさんのダミ声が響く。釣られて「メリークリスマス!」とうっかり明るく答えてしまう。

「はいやないでー」「はい」「しんちゃんやろ!」「違います」

電話口から、ダミ声のおやっさんは颯爽と消え去った。見知らぬ中年同士が交わした明るい聖夜のあいさつの余韻を遺して。

もしやこのおやっさんは、先日の大掃除で発掘した赤飯なぞ炊いている僕に「クリスマスらしい雰囲気の欠片をもたらしたサンタクロースではなかったのか?」

妄想はさておき、「メリークリスマスって今日言うんだっけ?」って疑問を残しつつ、このことをしっかり書き留めておこう。