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  1. 小野坂貴之

ひなまつりに思う

昨日の日中、職場で「今日はひな祭りなのだ」と知る。「男三兄弟やから全然馴染んでないのぅ」と思っていたが、帰宅途中に突然、赤いひな壇を思い出す。大工の棟梁だったじい様が建てた仏間隣の和室に、ちゃんとお内裏様とおひな様のいる赤い大きなひな壇が確かあったはずだ。(余った資材を使ったせいなのか、天井板が足りず和室の天井隅に大きな暗黒の穴が空いていたのだが、それはまた別のお話)

男三兄弟ではあったが、私たちの幼い頃は、オカンとばあ様のために出していたような。そういえば、ばあ様と桐らしき箱の中から大事におひな様を出していたような。それは古い和紙に包まれていたような。頭の中で少しずつ記憶が繋がっていく。

ひな壇の前でじい様が、幼い兄弟を並べて「借金の保証人にはなったらいかんで。ここから向こうまでぜーんぶうちの田んぼやったんやけどのぉ」と言っていたことがおぼろげに浮かんでくる。じい様が死んだ後、嘘か真か「今売ったら億じゃ」とオカンが言い放つのを聞いて、「もお、じいちゃんはー」とよく分からずに悔しがった中学生時代の記憶までも鮮やかに蘇ってしまう。

ひな祭り。

なぜかじい様とのほろ苦い思い出へと繋がってしまったが、「じいちゃん、塩梅が悪いけんの」と言いつつ夏には夜な夜なカブトムシを捕まえに裏のクスノキを一緒に徘徊してくれた優しいじい様のことを、久々に思い浮かべることができたので、うむ、良しとしておこう。